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Pietje Bell 2 ピチェ・ベル 2

オランダ映画 (2003)

オランダ人全員が観たとまで言われる 前作『ピチェ・ベル』の大成功を受け、直後に企画・製作された続編。主役のクイントン・シュラム(Quinten Schram)の出演時年齢が、前作で9歳、この作品で10歳というから、如何に急に続編が作られたかが分かる(『ホーム・アローン』の続編は2年後)。子供が主役の場合、数年で顔や声が変わってしまうこともあり(『ハリー・ポッター』シリーズはその典型)、この2作のように、ピチェがほとんど変わっていないことは珍しい。2作目になり、ピチェの悪戯のテンポが遅くなったり、刑務所のシーンがダレ気味となったり、逆に婚約パーティではドタバタ調になり過ぎたきらいはあるものの、展開のスピーディさと、ピチェの豊かな表情と、台詞の面白さは第1作を継承している。

第1作に習って 挿話を並べていくと、次のようになる。ピチェの誤認逮捕→始業式での悪戯とステル先生との出会い→めちゃめちゃになった婚約パーティ→フェイリンハの出立と陰謀→ヨゼフのお嫁さん捜し→海水浴でのヨゼフの破廉行為→「黒い手」によるヨゼフの花嫁候補の面接→ステル先生絡みでの「黒い手」の解散→刑務所内での様々な事件→ステル先生との人形劇と心臓麻痺→ステル先生の死→フェイリンハの救出と新聞王の脱獄→「黒い手」の再結成→新聞王による王冠の強奪と黒い手による阻止→姉とフェイリンハの結婚式。第1作と大幅に違うのは、物語のメインがピチャの悪戯そのものではなくなり、一定の物語に沿って流れていること。

クイントン・シュラムは、2017年インタビューで、撮影時10歳だったと述べている。そして、第1作目同様、この第2作目でも、父Dave Schramが製作、母Maria Petersが監督・脚本という点は踏襲。4つ年上の姉Tessa Schramも、スプルートの母の従妹として一瞬だが姿を見せている。この映画の後、クイントンは映画とは距離を置く(子役を目指さなかった)。父が監督、母が製作・脚本を担当した『Timboektoe』(2007)と『Lover of Loser』(2009)では、チラと顔を見せるが、これはご愛嬌。唯一の例外は、父母が無関係の『De brief voor de koning』(2008)という映画に、No.2の役で出たこと(左下に写真〔16歳〕/隣は主役)。その後は、大学で音楽教育を受け、姉が監督・脚本、父母が製作を担当した『Pijnstillers』(2014)と『Kappen!』(2016)の音楽(作曲)を担当した(右下に写真〔24歳〕/『Kappen!』、隣は父)。脱線するが、最近紹介した『De Groeten van Mike!(マイクから、よろしく!)』の監督は母、製作は父。オランダ伝統の子供映画は この2人が作り出したと言っても過言ではない(ジョン・ヒューズとクリス・コロンバスのペアのよう)。
  


あらすじ

ビチェが店の外に出ると、辺りは一面の雪。少し遅れて出てきた父、姉、母と雪合戦を始め(1枚目の写真)、直にフェイリンハも加わる。隣のフェールマン薬剤店の前に移動した父を狙ったピチェの一発は、父が体をすくめたことで、ドアのガラスを直撃し穴を開けてしまう(2枚目の写真)。ヨゼフは、父に、「あの音は 何だ! 見て来い」と言われ、外に出て行く。ドアの前に並んでいるピチェと両親を見て、ヨゼフは、迷うことなく、「お前の仕業だな、ピチェ・ベル!」と怒鳴る。「ボクのせいじゃない。パパが悪いんだ。お祝いだしね」。「お祝いなら、他人の物を壊していいのか?」。父が「弁償するから」と言い、ヨゼフは引き返そうとするが、ピチェが「マルタが、コンニャク〔verloot〕したんだ」と余分なことを言う〔“verloot” は別の意味だが、ここは語呂合わせなので、婚約に似た日本語を当てはめた〕。「蒟蒻(こんにゃく)した?」。父は「蒟蒻じゃない、ピチェ、婚約〔verloofd〕だ」とピチェに教え、ヨゼフには改めて、「マルタが婚約したんだ」と告げる(3枚目の写真、矢印はキスしている姉とフェイリンハ)。それを聞いたヨゼフは、「何だって!!」と愕然とする。ピチェ:「相手はポール・フェイリンハさ」。姉もやってくると、「私、婚約したの」と言い、「素敵な指輪 見てちょうだい」と見せる。その時のピチェの言葉、「バーゲン品より、ずっといいだろ?」は、前作で、ヨゼフの父が「女は金がかかる。婚約指輪を欲しがるぞ」と注意したのに対し、ヨゼフが「バーゲン品で安く済ませるから」と宥めた時の言葉を受けたもの。ヨゼフは、一生の夢がついえ去り、心神喪失状態で戻っていく。父に、「どうだった? ガラスが割れた音だったぞ?」と訊かれるが、「別に、何も…」と答えるのがやっと。心ここにあらずだ。
  
  
  

その夜、店の前を通りかかった泥棒が、ドアに開いた穴を見つけ、そこから手を入れ(1枚目の写真)、簡単に中に侵入する。そして、レジに入っていた現金と、金の懐中時計を奪う。その時、泥棒が、時計の裏に刻まれた名前を見て、「オーゼビエス・フェールマン? 何て名前だ」と呆れるが、ここで初めて父の名前が分かる〔配役表には、薬剤師フェールマンとしか書かれていない→前作の紹介でオーゼビエスと記したのは、この台詞(もう1ヶ所ある)に基づいている〕。翌朝、オーゼビエスは大騒ぎ。「泥棒だ! 盗まれちまった!」。そして、寝ているヨゼフを叩き起こす。「起きろ怠け者、有り金残らず盗まれた! 金時計もだ! 金持ちに見えんよう隠しとったのに」。そして、「泥棒が、ガラスを割ってドアを開けやがった」。心神喪失が続いているヨゼフは、この「ガラスを割った」という言葉に反応し、「ピチェ」と言う。「何だと?!」。「ピチェが窓を割った」。ここまでは正しいのだが、オーゼビエスは「待望」の結論に飛びつく。「もう言うな、それで十分だ! 奴は一巻の終わりだ。せいせいする!」。そう叫ぶと、警察を呼び、ベル靴修理店のドアをドンドン叩く(2枚目の写真、矢印は1人目の警官、もう1人は右にいる)。住み込みのお手伝いアニーが、「日曜の朝から、うるさいわね」とドアを開ける〔前作には登場しなかった若い女性〕。「ベルの奴らは、どこだ?」。「カト伯母さんの所よ。いるのはピチェだけ」。オーゼビエスは、「ピチェさえ、いりゃいい」と言うと、アニーを押しのけて店に入り、ピチェの寝室まで入り込む。一緒に来た警官が、ピチェの真上で「お早う」と言うと、ピチェがびっくりして目を覚ます(3枚目の写真)。「泥棒の容疑だ」。「またなの?」〔前作では、「ピチェ・ベルに窃盗の容疑/金や宝石を所持」と、新聞の一面を飾った〕
  
  
  

刑務所では、スプルートの父ヤン、クロックとトゥーンだけでなく、新聞王スタークも収監されている〔ツェッペリン号での取引が盗品の売買だったためか?〕。しかし、彼だけは特別待遇で、囚人服すら着せられていない。前記3人の刑期は10年、スタークについては不明。4人は作業室にいるが、クロックが看守に、スタークが何もしていないと文句を言うと、「例外だ」という返事。クロック:「俺も、座って新聞を読んでたい」。看守:「金さえ払えば、できるぞ」。「公平じゃない。あいつは百万長者だ」。その声が聞こえたスタークは、「それに、新聞王だ」と付け加え、看守は、「そして、お前は唯のクズだ」とクロックを笑う。クロックは、「窃盗で10年かよ。殺しちゃいねぇのによ! 唯のガラスじゃねぇか」と不満たらたら。そこにスタークが寄ってくる。「ダイヤを、ガラスに替えたのは拙かったな、クロック君」。さらに、ヤンに向かって、「前にも、誤魔化した奴がいた。そいつが、どうなったか警告しておいたハズだ」と嫌味を言う(1枚目の写真、矢印はネクタイ→囚人服ではない)。一方、ピチェは裁判も抜きでいきなり刑務所に連れて来られる。その姿を見た受刑者から一斉に、「見ろ、ピチェ・ベルだ! ロッテルダムのヒーローだ!」との声が上がるので、前作から日が浅いことが分かる。ピチェは所長室に連れて行かれる。そこにいたのは刑事のフォーカと所長のスランプリ〔台詞では“Fuik”と“Bruinslot”。後者は日本語では面白さが分からないので意図的に変えた〕。刑事が、「なぜ、ここに居るか知ってるかね?」と尋ねる。ピチェ:「監獄の中が見たかったから」。「じゃあ、認めるのか?」。「内容によりけりさ。いったい何だい?」。「フェールマン薬剤店での泥棒」。「知らないよ、フォークさん」(2枚目の写真)〔台詞では“Buik”と言っている。フォウクとボウクが似ている〕。「私の名は、フォークじゃなくフォーカだ。フェールマンが目撃者だ」。ピチェは、「ボク、何もしてないよ!」と抗議する。所長は、「わしには、あつかましい悪ガキに見える〔ロッテルダムのヒーローなのに?〕。一晩 監獄にブチ込めば、態度を変えるだろう」と言う。ピチェは、「スランプ〔不調〕さんには、閉じ込める権利なんかない!」と怒る〔台詞では“Zwartpot”と言っている。“Bruinslot”が「茶色の留め金」、“Zwartpot”は「黒い箱」なので、連想から間違えたのか?〕。「わしの名はスランプリで、ここのボスだ」と言って、独房に入れられる〔一晩なので、服はそのまま〕
  
  

ピチェは、独房に置いてあった新聞を見る。それは、いつもの『最新ニュース』ではなく、スタークの『大新聞』。一面は、「ピチェ・ベル監獄に」。ピチェが面白くなさそうに見ていると、隣の監房から呼び声がする。そして、「スプルート、つまり、ウィレムの父ちゃんだ。新聞はスタークからの差し入れだ。読んだか?」。「うん、いつも通り嘘ばかり。やってないって言ってるのに、ポーク〔豚肉〕刑事とトランプ〔カード〕所長は信じないんだ」〔台詞では“Kruik”と“Stoofpot”〕「誰も、ボクを信じない」。ヤン:「俺は、信じるぞ」(1枚目の写真)。「最近、スプルートと会ったことは?」。「いつもさ、友だちだから」。「ここに 会いに来てくれって、言ってもらえないか?」。「どうして、自分で訊かないの?」(2枚目の写真)「手紙を書いたら?」。ヤンは、手紙の束を壁越しにピチェに渡す。「1週間に1度は書いてるが、未開封で返ってくるんだ」〔ざっと15通はあるが、それだと4ヶ月も経ったことになる。最初の作業室での会話内容は、収監後すぐとしか思えない〕
  
  

翌日、雪の中庭で、囚人たちが円を描いて歩いている〔運動のため〕。ピチェは看守と並んでそれを見ている。ピチェは、右上方を指し、看守に「あれ見てよ、誰かが逃げようとしてる!」と知らせる。そして、看守が振り向いてキョロキョロしている隙に、いつも持っているパチンコでクロックの頭に小石をぶつける。そこから始まる囚人同士の派手な喧嘩。それを唖然として見ている看守から、ピチェはこっそり鍵束を頂戴し(1枚目の写真、矢印)、門の内扉〔写真の背後に見える〕を開け、外側の鉄門はてっぺんまで登り、一番上から、「『誰かが 逃げようとしてる』と言ったろ! じゃあね。さよなら」と叫ぶと(2枚目の写真)、刑務所からバイバイする。その直前、新しい囚人が連れて来られるが、警務官が、フォーカ刑事に「これを、所持してました」と金の懐中時計を渡す。それを見た刑事は、「フェールマンの時計だ。少年は無実だ」と言う。スランプリ所長は、「ピチュ・ベルを、直ちに 釈放しろ!」と命じるが、その時、先ほどの看守が駆けつけてきて、「もう、間に合いません」と告げる。「何だと?」。「逃げました。鳥は 飛び去りました」。「いったい、どうやって?」。「そこが、ピチェ・ベルなんだと…」。フォーカ刑事は、スランプリ所長の肩を叩き、小声で「知らんぷり」と言う(3枚目の写真)。「シランプリじゃなく、スランプリだ」。「『知らんぷりしよう』と言ったんです」〔台詞では“Doofpot”(隠蔽)と言っている。発音は似ていない〕。所長は、如何にもとニヤニヤし、「そうか」と言う。今度は刑事が、「ソーカじゃなくてフォーカです」と訂正。所長は、「『そうか、いい案だ』、と言おうとしたんだ」と反論する〔台詞では“Puik”(良い)と言っている。発音も似ている〕。映画の中でも一番凝った言葉遊びなので、すべて意訳で通した〔最後の方で、もう一度出てくる〕
  
  
  

ピチェは刑務所から家まで歩いて帰る途中で、川沿いを歩いている。後ろから来た自動車にクラクションを鳴らされ、岸辺に寄ったところにバケツの水をかけられ(1枚目の写真)、ずぶ濡れになる。ピチェは、対岸に渡るため舟に乗る。髪の毛にかかった水が凍りつき、如何にも寒そうに震えていると(2枚目の写真)、優しそうな少女ソフィーが、自分のマフラーを外し、「さあ、これ首に巻いて」と渡してくれる。そして、「誰だか、知ってるわ」と話す。「そうかい?」。「何でも あげちゃう、黒い手の首領でしょ」。そして、「女の子も入れてくれる?」と尋ねる(3枚目の写真)。ピチェは、「女の子はダメ〔Geen meisjes〕」ときっぱり断る。
  
  
  

ピチェは、ようやくブレー通りに辿り着くと、真っ先にフェールマン薬剤店に入って行く。店の中では、親子が薬剤の調合中。ピチェは、「おい、ハゲ! 無実だったから釈放されたぞ!」と怒鳴る(1枚目の写真)〔「脱獄」したのに、いつ「無実」だと知ったのだろう?〕「すぐに警察が来るからな。サイレンが聞こえるだろ」。驚いたオーゼビエスの手元が狂い、爆発が起きる。刑事と所長がパトカーで到着。店に入ってくる。そして、オーゼビエスに「ピチェは、刑務所から逃げた」と告げる。オーゼビエスは、「あの恥さらし! わしの店で大爆発を引き起こしおった! わしは破滅だ。奴を捕まえろ!」と怒鳴る。そして、ピチェに向かって、「わしの時計は どこだ?」と訊く。刑事は時計を出すと、「その乱暴な誣告をやめないと逮捕するぞ。分かったか?」と強く警告する(2枚目の写真)。「ピチェ・ベルは無実だぞ」(3枚目の写真)。
  
  
  

始業式。ピチェが、いつも通り遅刻して学校に行くと、校長が話している。「フェールマン先生がクラス替えになり、新しい先生としてステル先生が…」。ピチェは、仲間から「新しい先生が、来た」「あの、おじいさんだよ」「ステル先生だってさ」と聞かされ、「誰でも、ヨゼフ・フェールマンよりはマシさ」と言う。前に座っていた年下の生徒がそれを耳にはさみ、「そんなに ひどいの? ボクらの先生になるんだ」と話しかける。ピチェは、「ヨゼフは悪くない。話をよく聴いて真似するといい」と妙なアドバイス。「どういうこと?」。「同じことを言う。分かる?」。校長に代わって、ヨゼフが檀に立つ。そして、いつも通り 気味の悪い声で「生徒諸君」と言い始める。ピチェは、「こうだ」と言うと、立ち上がって、「生徒諸君」と発言する(1枚目の写真、矢印は年下の生徒)。そして、すぐに座ると、「さあ、やって」と囁く。ヨゼフは、「一体、何なんだ?」と不審がる。年下の生徒が立ち上がり、「一体、何なんだ?」とくり返す。「静かにせんか!」。「静かにせんか!」。生徒たちが笑う。「静粛に! 笑うんじゃない!」。「静粛に! 笑うんじゃない!」。「私を馬鹿にするのを、やめんか!」。「ボクじゃない。ピチェが教えてくれた」。ヨゼフは、いつもの顔で「ピチェ・ベル!」と吐き捨てるように言うと、「すぐに、部屋から出て行け!」と命じる(2枚目の写真)。しかし、今度は助っ人がいた。ステル先生は、「まあまあ、ご同僚、過剰反応なさるな。この子の助言はとても良かった。少し逐語的すぎただけだ。座りなさい、ピチェ」と、ピチェを席に戻す〔「とても良かった」というのは、かなり大胆な評価〕。ヨゼフの話が始まると、ピチェはスプルートに話しかける。「スプルート、昨日 君の父さんに会ったよ」。「ボクに内緒で、父ちゃんに会うなよ!」。「偶然なんだ。君に会いたがってたぞ」。「ボクは、話したくない!」。「話すぐらい、さしつかえないだろ?」。「それが、『さしつかえ』あるんだ!」(3枚目の写真)。「父さんじゃないか」。「そうさ、でも、二度と 会いたくない」。
  
  
  

ピチェが教室に入って行くと、教壇には姉でなくステル先生が座っている。先生は、ピチェ・ベルが前を通ると呼び止め、「君は、私の受け持ちになった。手の焼ける生徒なんだろ? 町中が そう思っとるからな」と言い、ピチェが昨夜見た新聞を取り出す。ピチェは、「それは、読んでる新聞によります」と言い、『最新ニュース』を取り出す。そちらの一面は、「ピチェ・ベル、無実の収監」だった(1枚目の写真)。先生は、「どんな話にも、2つの面があると言いたいのかね? 私達は、気が合いそうだな、ピチェ。私は厳しいが、教室で笑うことは禁じておらん」。「パパも、同じこと言ってます」。「何て?」。「『笑いがあってこそ人生だ』って」〔前作の初めの頃、出てきた言葉〕。「お父さんは、とても賢い人だ。じゃあ、座って集中しなさい。同じことは、二度言わないぞ」。ピチェは、もう悪戯を始める。「何て言われました、先生?」。「同じことは、二度言わないぞ」。「でも、今、言ったよ!」(2枚目の写真)。
  
  

地下の隠れ家で「黒い手」の集会が始まる。前作に比べてペンチェがいなくなり、代わりにスプルートが加わっている。ピチェが「マルタとポールの婚約について案がある」と発言すると、エンゲルチェが「面白くないや」と不遜な発言。ピチェは「エンゲルチェは反論したから罰金1セント。会計係は記録すること」と、スプルートに言う。エンゲルチェは「反対してない。『面白い』って言ったんだ」と嘘をつく。「そんなこと言わなかった。つんぼじゃないぞ。黙らないと罰金が増えるぞ」。「でも、オレ…」。「黙れ! さもないと罰金だ!」。腹を立てたエンゲルチェは、「ボスづら するなよ!」と、またまた不遜な発言。ピチェは悠々としたもの。「ボスづらしてない。ボクがボス〔Ik speel niet de baas, ik bén de baas!〕!」(1枚目の写真)「君が、強盗の首領になりたいなら、どうぞ ご自由に」と帽子を脱いで前に置く。さらに、「投票しよう。首領になりたいのは、誰だ?」。当然、誰も手を上げない。「盛大なパーティをやる。進行を仕切るつもりだ」。サーカスでの惨めな失敗を覚えているスプルートは、「魔法だけは、やめといたら?」と発言する。「何で、悪いんだ?」。一方、新聞社では、編集長がフェイリンハ社長に、「第一面は、王冠で行きますか?」と相談している。「何の王冠?」。「ロマノフ家の王冠が博物館に2ヶ月展示されます」。そう言って、王冠の写真を見せる〔重要な伏線〕。一方のフェイリンハは、それどころではない。「アメリカの親会社が危機に瀕してる」と手紙を見せる(2枚目の写真、黄色の矢印は王冠、赤の矢印は手紙)。「本社が倒産したら、我々も道連れ。全員、解雇だ」。「本社の考えは?」。「私に助けを求めてる。10年 居たからな」。「行くんですか?」。「他に何ができる? 座して死を待つか?」。「婚約中じゃないですか!」。「そう、それも問題なんだ!」。ピチェの姉とフェイリンハは、新築工事中の家を見に行く。「幽霊屋敷みたいね!」。「怖いのかい?」。「いいえ、あなたさえ 居れば」(3枚目の写真)。フェイリンハは、アメリカ行きをどうしても打ち明けられない。その夜、刑務所では、クロックとトゥーンが看守に呼び出され、誰もいない監房に連れて行かれる。そこには、なぜかシャベルが2本置いてある。「お前達は、特別な夜間任務に就く。所長命令だ」。クロックが「いつ、寝たらいいんで?」と訊くと、「日中だ」という変な返事。察しの早いトゥーンは、「俺のダチと俺は、この特別任務を喜んで受けるよ」と言い、「正しい向き〔kant〕は?」と尋ねる。「北だ」。「北はどっちです?」。「太陽が射さない方だ」。これだけ言うと看守は行ってしまう。非常に曖昧な指示だが、実は所長とスタークは結託していて、スタークを脱出させるための地下トンネルを2人に掘らせることにしたのだ。クロック:「ここには窓もないし、今は夜だ」。これではまともなトンネルを掘れるはずがないが、2人はシャベルを使って掘り始める。
  
  
  

姉の婚約披露パーティ。始まる前に、姉は、「ピチェ、お願いだから、今日は いい子でいてね」と頼む。「約束するよ、マルタ。忘れられない日になるって」。これは、ピチェの場合、とても危険な言葉だ。一番に到着したオーゼビエスが会場への仕切りを開けると〔なぜ、ピチェの父は、嘘で息子を刑務所に入れたような男を招待したのだろう?〕、テーブルクロスには「黒い手」がベタベタ押してある(テーブルは3列、計40人ほどの席)。「悪ガキが、また やらかしたな」。口の減らないオーゼビエスは、こう批判するが、その脇で息子のヨゼフがしていたことは、①黒板に書かれた “Paul” の名前の真ん中に、ツバをつけた指で線を引き、隣に置いてあった赤いバラの花をせっせと折ることだった。その間も、オーゼビエスは、「あの、つらよごしの常套手段といったら、不意打ちで全部ブチ壊すことだ。それに比べると、ヨゼフは…」と、ピチェの悪口を続けている(1枚目の写真、黄色の矢印はツバで引いた線、橙色の矢印は折られたバラ)。この親子は、名前からしてユダヤ人だが、いつの時代も憎まれ役の標的はユダヤ人が引き受けている。その次に入って来た主要人物がカト伯母。伯母はさっそく、ピチェにキスを要求する。その時、舟でマフラーをくれた可愛い女の子ソフィーが入ってくる。ピチェの驚いたような顔は 何を意味しているのであろう?(2・3枚目の写真)〔それにしても、ソフィーはなぜ招かれたのだろう? ベル家とは無関係だし、クラスも一緒ではない〕。ピチェは、その後、会場の写真係に頼んでスプルートの写真を撮ってもらう(父ヤンにあげるため)。
  
  
  

会場の一角では、人目を避けるように、フェイリンハが編集長と話し合っている。「マルタは、アメリカ行きを どう思ってます?」。「まだ、話してない。彼女の婚約パーティを、台無しにしたくないからな」。「あなたの婚約パーティでもあるんですよ」。「君は、女性を知らんのだ」。「結婚するなら、一緒に行けばいいでしょ」。「いやダメだ。一刻も早く始末を付けたい」。ピチェは、2人の話にずっと耳を傾けている(1枚目の写真、矢印)。「そのためには、一人の方がいいんだ」。編集長も納得する。「昼夜ぶっ通しの作業でしょうから、確かに一人の方が便利でしょう」。そして、「出発は いつです?」と尋ねる。「3日後だ」。その言葉に、「何だって!」とピチェは驚く(2枚目の写真)。
  
  

3列目のテーブルには、オーゼビエス、カト伯母、ヨゼフの順に並び、向かい側にステル先生と奥さんが座っている。欲張りのオーゼビエスは、きっと朝から何も食べずに来たに違いない。ヨゼフ、「踊って来い。高い授業料 払ったんだ!」と言い、隣のカト伯母と踊ってくるよう命じる。2人がダンスに行くと、オーゼビエスは2人の皿に乗っていた料理を全部自分の皿に入れる(1枚目の写真)。そして、向かいのステル先生に、「残すと、もったいないので」と言い訳。一方のヨゼフ、伯母に足を何度も踏まれて痛そうだ。その時、ピチェは、テーブルの下にもぐり込む。それを目撃したステル先生は紙とペンを取り出す。ピチェが隣合って座っている2人(Aの左足とBの右足)の靴紐を縛り、いざ、ステル先生の靴にとりかかろうとすると、ピチェの目の前に紙が下りてくる。そこには、「私の靴紐は抜かして」と書いてあった。ヨゼフがへたばって帰ってくる。「早かったな」。「足の指が、あざだらけ…」。伯母も来て、「お腹が空いたわ。タダの食事は大歓迎」と座ろうとすると、皿が空っぽだ。「ちょっと前に、ウエートレスが下げたんです」〔なら、皿ごと持っていくはずだが?〕。ピチェがテーブルの最後の方に近づくと、何と、さっきの女の子ソフィーと鉢合わせする。「ここで、何してるの?」。「あなたと同じこと」。「これ、ボクたちの冗談なんだ」。「靴ひもを結ぶくらい、誰にでもやれるわ」(2枚目の写真)。「これ、カト伯母さんだ」。「靴下に穴が開いてるわ」。「臭いも、強烈だ!」。ピチェはテーブルの下から出ると、楽団のいるステージに上がり、「みんな並んでポロネーズ!」と声をかける。その声に従って、立ち上がったオーゼビエスやヨゼフは、全員の靴がつながっているので転倒し、ヨハンは隅に置いてあったウェディング・ケーキに顔ごとぶつかる(3枚目の写真、矢印はオーゼビエス、ヨゼフと父がつながっているのは、ダンスの後、伯母と席を入れ替わったから)。それは、もう大騒ぎに…
  
  
  

ピチェたちは、一時は2階に閉じ込められるが、特別ショーがあるので許してもらう。ショーは、前作のサーカスの手品とよく似た始まり方。ピチェが、「上等の金の腕時計です」と言って時計を見せる(1枚目の写真、矢印)。しかし、今度はハンマーで叩いても時計は無事で、「元通りにして、マルタに返します」と姉に渡す。そして、こっそり、「ほんとは、ポールからのプレゼントだよ。彼が払ったから」と教える。ここまでは、婚約パーティに相応しい演出だった。しかし、ピチェがさっき会場で耳にはさんだ忌まわしい会話が、その先の予定を変えてしまう。「姉さんが、婚約者に盗られてしまったので、新しい姉さんを呼び出します」と言って、花嫁姿のエンゲルチェを出した後、「新しい婚約相手も3日後に単独アメリカに去ってしまうので、姉さんは何ヶ月も一人ぼっち!」とバラしてしまう。姉は「つまらない演出ね!」と批判するが、フェイリンハが「済まない。話しておくべきだった」と白状すると、「え! あれ、ほんとなの!?」と絶句(2枚目の写真)。「嘘だと言ってちょうだい」。「嘘じゃない。3日後に立つんだ」。「この ろくでなし!」。「話しておくべきだった」。「結婚は 取りやめるわ!」。後半の騒動は、ドタバタではなく破局だった。翌日、ピチェが通りにいると、スプルートが声をかける。「お目玉くらった?」。「石炭置場に監禁さ」。そして、家の様子を訊かれると、「マルタは一晩中泣いてた。ポールはベルを押しっ放し。だけど、誰も ろくでなしなんかにドアは開けない」と教える(3枚目の写真)。
  
  
  

フェイリンハが出発の前日に、最後ということで、店のベルを押す。出てきたのはピチェ。「相手はボクだけさ。誰も話したがらないから」。フェイリンハは、「これ、パーティの写真と、マルタへの手紙だ」と言って封筒を渡す(1枚目の写真)。「彼女には悪いが、私は明日出発する」。「分かった。じゃ、さよなら」。そして、ドアを閉めかけ、改めて尋ねる。「どうして、姉さんをこんな目に遭わせるの? 何も、してないのに」。「ピチェ、私の愛は変わらない。信じてくれ」。「なら、どうして一人にするの?」。「手紙を渡してくれればいい」。写真と手紙をもらった姉は、フェイリンハへの愛が変わらないことを悟る。そして、翌日、フェイリンハが船に乗ろうとしていると、呼び止めて首に抱き付く。こっそり姉の後を付けていったピチェも、2人が仲直りした様子を見届ける(2枚目の写真)。フェイリンハはギャングウェイを嬉しそうに上がって行く。しかし、船室に入ると、そこに待ち伏せていた男に木の棒で頭を強打され、気を失う(3枚目の写真)。誰が、何のために?
  
  
  

刑務所の洗濯室でヤンとクロックが働いている。クロックの服があまりに黒くて汚いので、「何で、こんなに汚れてる?」と尋ねると、頭が弱くて口の軽いクロックは、「トンネルのせいさ」と言ってしまう。「トンネルって?」。「俺達が掘ってるやつ。いけねぇ、話しちまった。極秘なんだ」。「俺の口は堅い」。「分かってる! だがよ、トゥーンの話じゃ、スタークは お前を外せとさ」。そこに、面会人があると看守が呼びに来る。「俺に? 誰です?」。「10歳くらいの男の子だ」。ヤンは、スプルートが来たと思って喜んで会いに行くが、いたのはピチェだった。「スプルートだと期待しただろ。でも、彼は来ない」。「俺は、不可能を期待してたんだ」。「父親が息子に会いたがるのは、変じゃない」(1枚目の写真)。ヤンは昔の悪人とは違っていた。自分の態度を反省し、「俺は、ここで10年暮らす。出所する頃にはスプルートは大人だ。街で息子と遭っても見分けがつかんだろう」と悲観する。ピチェは、このために写真係に撮ってもらったスプルートの写真を渡す。ヤンは写真を見ながら、「俺は、毎日 子供達のことを考え、悔やむんだ。俺が台無しにしたからな」と後悔する〔当時、写真は簡単に撮影できず、しかも高価だったので、感謝の言葉くらいあっていいと思うが…〕。この後、残されたスプルートの一家の日常生活が紹介される。それは、ゴミ山でのゴミ拾い(2枚目の写真、一家5人が写っている)。1930年代初めは、深刻な経済不況の時期なので、4人の子供を抱えた母親にとって、これ以外に選択肢がなかったのかも。
  
  

フェイリンハが覚醒する。連絡を受けた所長がやって来て、「客人の お目覚めかな?」と声をかける。そこには、絨毯が敷かれ、ベッドの他に、1人掛けのソファやテーブルもある。三方を囲む鉄格子さえなければホテルの部屋のようだ。「どうなってる? 船内か?」。「違う。ここは 安全な陸上だ。どこにも行かない。ここは、5つ星ホテルではないが値段はずっと高い。拒めないほど高額だ〔相当の賄賂をもらったということ〕。その時、スタークも姿を見せる。そして、「監獄にようこそ。ここで君に会えて実に嬉しい。アメリカからの手紙のトリックに簡単に引っ掛かったな」とせせら笑うように言う。「じゃあ、手紙は偽物だったのか。それに、騙されるとは…」。そして、「望みは何だ?」と尋ねる。「君の新聞社が欲しい」。フェイリンハは直ちに拒否するが、スタークは、「よく考えろ。ここじゃ他にすることなどない。外じゃ時間は経つが、ここでは止まっとる。その気になったら会いに来い」と冷たく言う(1枚目の写真)。最後に所長が、「叫んでもいいが、聞く者は誰もおらん。この独房は、完全に隔離されとるからな」と、状況が如何に絶望的かを告げる。フェイリンハは「新聞が読みたい」と頼み、希望は聞き遂げられる。一方、ピチェは、スプルートの家に報告に行く。ピチェが、ヤンに会いに行ったと話すと、「この、気狂い!」と冷たい非難。手伝いに来ていた母の従妹〔ピチェ役のクイントンの実の姉〕が、「ウィレム、何て口きくの?」と叱るが、騒ぎを聞いて出てきた母親の意見はスプルートと同じだった。「行くなとは言わないわ。でも、スプルートに話すのは、やめて」。「なぜなの? 悔いてるのに」。「もっと前に、そうすべきだったわ。生きてくのも やっとなのよ。14歳の従妹に子供達を預けて、生活のため必死で働いてる」〔ゴミ拾いとは別にということか?〕。そう言うと、スプルートの弟に、「寂しかったでしょ?」と声をかける。ピチェは、それを聞いて、「その子に、何日会ってない? 1日だけだろ?」と突き放すように言い(2枚目の写真)〔ヤンは10年間も会えない〕、家を飛び出て行く。
  
  

ヨゼフは、マルタに会うため、工事中の新居まで わざわざ出かけて行く。「アメリカから何か便りは?」。「ないわ」。「そりゃ、嬉し… いや、悲しいね。もう、1ヶ月は経つんじゃないか?」。「郵便船は遅いのよ」。「ちょっと立ち寄ってみたんだ。君は、ここに住みたくないんだろ?」。「こんなに美しい家、見たことないわ」。「落ち着かないよ。僕達みたいな人間には」。そして、さらに、「僕たちの境遇は、よく似てる。同じ年頃で、隣同士で、同じ学校で教えてる。僕たちの父さんは、ずっと仲良しだったしね〔100%嘘〕」。そして、「ポールを忘れて。君と僕は同類なんだ」と迫る(1枚目の写真)。こうした状況を受けて、ピチェは「黒い手」の会合で、「黒い手の諸君、特別ミッションだ。ヨゼフを、姉さんから離したいが、方法が分からない」と相談を持ちかける(2枚目の写真)。エンゲルチェの提案:「ヨゼフの脚を折れば、松葉杖だから、姉さんを追えないよ」。ケイスの提案:「眼鏡を隠したら、マルタを見つけられない」。スプルートの提案:「ポールに、すぐ帰るよう手紙を書いたら?」。その時、新しい声がする。「ヨゼフを姉さんから離したいなら、他の女性を捜せばいい」。ピチェは、「この子、誰だ?」と糾弾する〔秘密のアジトなので、誰かが連れ込んだ〕。エンゲルチェは、「クラース。俺たちに加わりたいんだ」と弁解する。ピチェ:「前もって相談すべきだろ?」。「今すりゃいい!」。結局、クラースは、「見習期間3ヶ月」ということで参加を許される(3枚目の写真、左がクラース〔男の子に扮したソフィー〕)。エンゲルチェ:「クラースのは名案じゃないか」。「そうだけど… ヨゼフの相手を捜す方法は?」。その時の返事で一番面白かったのは、一番目立たないヤープの言った「精神病院〔gekkenhuis〕〔3枚目の写真の右がヤープ〕。ピチェは、最後に名案を思いつく。「新聞を使おう!」。
  
  
  

ピチェは、新聞社に行き編集長に会う。姉の結婚相手が社長なので、今や完全にフリーパスだ。編集長は、「『男性が女性を求める』広告を載せたいって?」と、当時としては想定外の要求に腰を抜かす。「そう。幾ら、かかるの?」。「一体、どこに入れるんだい?」。「さあね。みんないろんなもの捜してるよね? 仕事とか家とか迷子の犬とか」。「違うな。何せ、結婚相手を捜すんだから」。「じゃあ、求婚欄〔Huwelijkskandidatenadvertentie〕とでもしたら? 聞いたことないけど面白いよ」(1枚目の写真)。「きわめて異例だな〔hoogst ongebruikelijk〕」と二の足を踏む編集長に対しピチェは、「慈善事業〔goed doel〕なんだ。ボスと相談してよ」と請求。「ボス」が効いたのか「慈善」が効いたのか、編集長は「分かった。やってみよう。実験的に〔Als experiment〕」と言ってくれる。「お金は要らない。だけど、文面は君が用意するんだ」。その時、奇妙な情報が編集長に伝えられる。「アメリカから変な電報が来ました。社長が着いてません」。電報を読んだ編集長は、「来社を要請したことすら、ないそうだ」と言い、「一体、どうなっとる」と驚く。ピチェにも、「お姉さんには、何か届いてる?」と尋ねる。「ううん」。「じゃあ、どこに いるんだろう?」。社長が、スタークの陰謀で刑務所内に監禁されているとは、知る由もない。ピチェは、「文面」の制作に取りかかる。舟の上で、仲間たちに囲まれて、最初の部分を書き出す。「意地悪で偽善的な お節介屋が、けちで 小言好きの女性を求めています」(2枚目の写真)。正直かもしれないが、これでは誰も惹かれない。ケイス:「眼鏡はOKだよ」。ヤープ:「ダンスが踊れないと」。エンゲルチェ:「相手を審査しないと」。ステル先生の授業中も、ピチェは草案作りに熱中している(3枚目の写真)。「職業: 陰険な学校教師で、生徒を虐めて楽しむ趣味あり。授業は耐えがたいほど退屈で、怒鳴ると顔に唾を吐きかけ…」〔すべて正しい〕。ピチェが授業を聞いていないことに先生が気付く。
  
  
  

授業が終わると、先生はピチェを留め、「習字帳を見せなさい」と要求する。読んだ先生は、「私のことじゃないだろうね?」と心配する。「まさか。あなたは最高の先生です。ちょっと年だけど。言われれば、何でも手伝います」(1枚目の写真、黒板の拭き方がダイナミック)。ピチェは、手伝いながら、「ボクたち、ヨゼフのお嫁さんを捜してて、それ新聞広告です」と打ち明ける。「ヨゼフに嫁さん?  それなら、売り込まないと! 良い面を強調して」。「そんなの、どこに〔Heeft hij die〕?」。「もちろん、彼にだって肯定的な所はある」。「誇大広告〔opscheppen〕しろってこと?」。「そうしないと、見込みはないよ〔“er komt geen hond(犬) op af”/これは英語の “there is not a dog's chance” と同じ意味→共に「犬」を用いた慣用句になっている点が面白い〕」。そこで、ピチェはスプルートを連れて、オーゼビエスに訊きに行く。すると、自慢話が出るわ出るわ…。「詩を100篇 暗唱できる。学者なんだ」「わしと同じくらいハンサムだ。母親は無器量だったがな」「お隣の誰かさんと違って、警官にも追われないし。第一面なんかにも載らない」。ここまできて、ピチェが「載ったりして…」と、ニヤニヤする(2枚目の写真)。「ありえんね。そんなワルじゃない。躾け方が違う」「繕い物は得意だ。自分の靴下もかがってる。わしのもな」「それに、何と言っても倹約家だ」。スプルート:「何歳です?」。「26だ」。そう答えると、「薬草飴かい?」と売ろうとする。新聞社では、ピチェの書いた原稿を見ながら、植字工が活字を1つずつ選んでいる。「年齢26。6と2が、1つずつと…」〔数字の順を逆に読み上げている〕。刷り上った新聞の内容。「職業: 学校教師。繕いものが得意で、優しい倹約家の父親と住んでいる。隣の家の少年には、いつも薬草飴をあげている。優しくて魅力的、かつ、賢くて倹約家の妻を求めている」。嘘だらけの過大広告だ。フェイリンハは記事を読んで、「新聞に、こんな奇妙な広告を載せるなんて… 笑ったなんて久しぶりだ」と感心する。編集長は、配送担当に「ピチェ・ベルの発想だ」と説明している。「そうでしょうとも。どうなることやら」(3枚目の写真)。
  
  
  

次の挿話は、ストーリーと無関係なので省こうかと思ったが、ヨゼフのお粗末さがよく分かるので、復活することにした。ピチェとスプルートと姉と伯母が4人で海水浴に行くという設定。ヨゼフのことが何故か気にいっている伯母が、海岸行のことを話してしまい、ヨゼフも自家製の海水パンツを持ってこっそりついて来る。ヨゼフは4人が浜辺でくつろいでいる前に現れ、「何という偶然! こんな所で会うなんて!」と白々しい嘘を付き、「座ってもいいかい?」と居座ろうとする。ピチェは、「マルタの好きなこと知ってる?」とヨゼフに訊く。「何だ?」。「ドイツ兵がやってるみたいに、穴を掘ることさ。海に近いほど、よかったんだよね、マルタ?」。そう言うと、ヨゼフにシャベルを渡す(1枚目の写真、矢印はシャベル)。ピチェとスプルートは、求婚広告の載った新聞を、浜辺の若い女性にばらまく。その1枚が風に飛ばされ、カト伯母の目に留まる(2枚目の写真、矢印はヨゼフ)。ヨゼフは、穴を掘るのにうんざりし、マルタが「女性」と書かれたシャワー室に向かうのを見ると、穴から出てシャワー室に接近。樽に乗って高窓から中の様子を窺う(3枚目の写真)。興奮のあまり樽のバランスが崩れて落ちると、見ていた子供たちに笑われ、姿を消す。マルタがシャワー室から出て物を取りに行くと、ヨゼフはシャワー室に入り込み、マルタの荷物を漁って下着を取り出し匂いを嗅ぐ。まさに変質者だ。その時、ドアが開いて、太ったおばさんが、「何してるの? ここ、女性専用よ!」と厳しく叱る(4枚目の写真)。ヨゼフは、「家内のバッグを取りに来たんです」と誤魔化し、荷物ごと出て行く。お陰で、戻ってきたマルタは、「私の服がないわ!」と困惑。おばさんが、「編んだ水着の眼鏡男が、バッグを持ってったわよ」と教える。「ヨゼフだわ」。「うさんくさい奴だったわ」。結局、マルタはカト伯母の服を借り、伯母は露出度の少ない水着の上からタオルをかけ、家路につくことに。ピチェが、「マルタ、誰でも伯母さんだと思うよ」と慰めると、「そうね。これで、あのイヤらしいヨゼフを追い払えるなら!」と返事する。ヨゼフに対して残っていたマルタの好意も、これで吹っ飛んだ。一方のヨゼフ。海の中に隠れたことはいいが、自家製の海水パンツが伸びてしまい、どこかに流れていって素裸となる。いい気味だ。
  
  
  
  

刑務所では、休憩時間に中庭で、スタークがクロックとトゥーンに新聞を見せている。「2週間後、ロマノフ家の王冠はロッテルダム博物館から港に輸送され、アメリカ行きの船に積み込まれる。我々は、それを途中で奪う」(1枚目の写真、矢印は「つんぼ桟敷」のヤン)。クロックが、「何で、王冠が要るんだね? かぶりたいんかね?」と訊くと、スタークは「冠なんかは、ゴミ箱行きだ。欲しいのは先端のダイヤだけ。少なくとも100万の価値がある」と説明。「2人とも、掘り続けるんだ」と指示する。次のシーン。トゥーンが穴を上方に向けて掘っていて、遂に貫通した。ところが、穴から出てみると、そこは何と所長の部屋〔伏線〕。「所長の部屋に出ちまったぞ、クロック!」。クロックが、「鍵の在りかでも訊いたらどうだ?」と皮肉を言うと、怒ったトゥーンが机を蹴飛ばし、「痛てっ!」(2枚目の写真、矢印は穴の位置)。
  
  

ヨゼフの花嫁候補の選定場所は、マルタの新居。「黒い手」の団員総出で対応する。審査員席に座ったのは、誘導係のヤープとクラースを除く4人。待合室は年輩の女性で満員(1枚目の写真)。4人の前に現れた女性は、何れも寒気のするような人物ばかり。中でもひどい2人を紹介しよう。ピチェ:「どこが、倹約家なの?」。「地面からチューインガムを集めて噛んでるわ」。ピチェ:「倹約家じゃなくて、乞食だね」。もう1人は、「私、洗濯、アイロンがけ、料理、裁縫。何もしないから、主夫にやってもらうの。拭き掃除も、洗い掃除も、買い物も…」。ピチェ:「おしゃべり以外に、何ができるの?」。そして、問題は、最後の方になって発覚した。「あたし、幾つに見える?」。ピチェ:「100歳?」。「ほんとは75だけど 47に見えるから、62歳の男性には お似合いでしょ?」。この話に驚愕し、改めて記事を見たピチェ(2枚目の写真)。待合室にいる2人に、「みんな家に帰して! 年寄りばかりだ!」と指示する。
  
  

誰もいなくなってから、カト伯母が到着する。「ひどい旅だったわ。5回も路面電車を乗り換えて! 遅刻かしら?」。そこに、なぜかヨゼフがやって来る。伯母と鉢合わせしてヨゼフは困惑する。「まあ、ヨゼフ。広告を見て、ここに来たのよ」。「どんな広告です?」。「倹約家の妻の募集よ」。「どんな男です?」。「詩が100篇 暗唱できる男性。あなたじゃないの?」。「何で、知ってるの?」。伯母は、ハンドバッグから新聞記事を取り出して見せる。それを読んだヨゼフは、近くに落ちていた新聞に押してあった「黒い手」と足して2で割り、結論に結びつく。そこに、声を聞きつけたピチェが姿を見せる。ヨゼフは、「ピチェ・ベル!」と叫ぶと、ピチェの腕を乱暴につかむ(1枚目の写真)。そして、そのまま家まで連行する。店に入ると、「此奴は、僕を完全にバカにした!」と大声で叫ぶ。返事がない。「誰も、いないのか?」(2枚目の写真、矢印は掃除中のアニー)。アニーは立ち上がり、「落ち着いてヨゼフ。どうしたの?」と尋ねる。記事を見せるヨゼフ。「でも、ピチェって上手なのね。あなたが、こんな風に考えてるなんて」と、ピチェを褒める。「ステル先生が教えてくれた。人は 思ったほど悪くないって」。アニー:「私も そう思うわ、ヨゼフ」「ピチェ、誰か候補者見つかったの?」。「ううん、大失敗。もう一度やり直さないと」。アニーはヨゼフの目をじっと見て、「あなたの目は曇ってるわ。いつも、顔を付き合わせて待ってるのに」と誘う。こうして、意外な形で、ヨゼフは未来の花嫁を見つけることができた〔前作のエンディングと違ってくる〕
  
  

一方の新聞社。いっぱい手紙が届いている。編集長:「全部、新しい広告の要請だ」。「全員が、個人交際を求めてますな」。「個人交際〔contactadvertentie〕か、いい響きだ」。「ピチェ・ベルは、金鉱を当てましたな」。「ピチェに褒美をやろう。喜ばせてやりたい」。「黒い手」の会合では、ピチェがステル先生へのプレゼントを買う動議を出している。プレゼントするのは15ギルダーの彫像。動機は、「あれほど立派な先生は初めてだ」。常に逆らってきたエンゲルチェが、今度も反対する。「なら、君が自分で買えばいい。俺は反対だ」。スプルートも、「ボクもだ!」。「分かった。じゃあ、投票しよう。クラースは外す」。エンゲルチェ:「どうしてさ?」。「まだ、見習期間だ」。「バカげてる!」。「彫像に賛成の者は?」。手を上げたのはピチェ1人。「反対の者は?」。投票権のないクラース以外は、全員が手を上げる(1枚目の写真)。エンゲルチェは、「これは、ピチェの責任だ!」と突き上げる。ピチェは、「勝手にしろ〔Jullie bekijken 't maar〕!」と帽子を机に叩きつけると、「ボクは、出てく!」と出て行ってしまう。「黒い手」は、自動的に解散となった。ピチェが家に戻ると、新聞社から手紙が来ていた。中に入っていたのは、報奨金の20ギルダー札1枚。ピチェは、さっそく新聞社を訪れる。そして、編集長に、「別の広告が出したいんだけど」と言い、「黒い手は、びしょぬれ男を捜査中」〔「びしょぬれ男」は、前作でピチェがフェイリンハを呼ぶのに使っていた言葉、これならフェイリンハにだけ真意が伝わる〕と書いたメモと、10ギルダー札を渡す(2枚目の写真、赤い矢印はメモ、黄色の矢印はお札)。その広告を呼んだフェイリンハは、「どうやって私を見つける気なんだ?」と言って、新聞を投げ捨てる。そして、絶望感から置いてあった陶器のポットを壁に投げつける。看守が、「水が嫌いなのか?」と訊く。「接着剤を持って来て。つなぎ合わせてみる」〔伏線〕。ピチェは、残った10ギルダーに自分で5ギルダーを足して彫像(ミュロンの円盤投げの石膏レプリカ)を購入し、学校に持って来る。さっそくエンゲルチェが、「何、持って来た?」とイチャモン。「ボクらのプレゼントだ」。「約束違反だ。誰の金だ?」。「黒い手が稼いだ金だ。新聞が払ってくれた」。「黒い手には、もう うんざりだ。このペテン師!」。「何が悪い? ケンカを売るのか?」。「お前なんか怖くないぞ! この ニセ盗賊!」。こうして2人の喧嘩が始まる。先生が入って来て ピチェが立ち上がったところを、卑怯なエンゲルチェが押したので、ピチェの体が彫像にぶつかって像は壊れる。先生が、「そこに落ちてるのは?」と尋ねると、ピチェは悔しそうに、「先生へのプレゼントが壊れたんです!」と答える(3枚目の写真、矢印は破片)。先生は、「きっと、元通りにできるだろう」と慰めるが、ピチェは、「いいえ、もう無理です」と言って教室から出て行く。「何もかも、最悪… ポールとマルタ、スプルートとパパ、ボクと黒い手…」と嘆くピチェに対し、追いかけて来た先生は、「ピチェ、最後には必ずハッピー・エンドになる」と教える。「おとぎ話では、悪い狼に食べられるだろ? それでも、結果はハッピー・エンドになるんだ。狼の腹を裂けば、赤頭巾ちゃんは生きたまま出てくる」。
  
  
  

ピチェは、先生の言葉を受けて壊れた彫像を接着剤で貼り合わせ始めるが、フェイリンハの方も進展していた。陶器のポットを直すための接着剤で新聞を貼り合せて「手紙」を作ると〔ペンがないので〕、上着のポケットに入れ、上着の背中には床の埃を擦り付けた手で「黒い手」の印を押す(1枚目の写真、矢印)。最後は、支給されたミネストローネのようなもの〔1枚目の写真の矢印の上に写っている〕を上着の胸部にかけ、「汚した」と言って看守に洗濯を依頼する。普通なら、汚れた服はそのまま大きな洗濯機に入れられて一巻の終わりになるのだろうが、そこは映画、たまたま作業の担当者はヤンで、食べ物で汚れたフェイリンハの上着をうんざりした顔で見た後(2枚目の写真、矢印の先に、分かりにくいが「黒い手」が押してある)、上着をひっくり返して背中の「黒い手」に気付く。そして、これには深い意味があるに違いないとポケットを探ると、折り畳んだ紙が出てくる。後で、隙を見て紙を開いてみると、そこには、「私は、誘拐され、独房に監禁されている。スランプリ所長とスタークはぐるだ。これを読む人へ。助けてくれ。警察に知らせろ。もし、つてがなければ、黒い手に。私の名前はポール・フェイリンハ」と、新聞の文字を1字ずつ手でちぎって、貼り付けられていた(3枚目の写真)。ヤンにとって、「黒い手」と言えば ピチェだ。
  
  
  

映画は、同時進行の形で、ピチェとステル先生の人形劇(手遣いによる操り人形)の様子を見せる(観客は生徒たち)。ピチェが赤頭巾役、先生が狼役をやっている(1枚目の写真、矢印の先に赤頭巾の人形)。ところが、狼が赤頭巾の先回りをして祖母を食べる下りまで来た時、先生が急に苦しみ出す。しかし、いつも緊急時に飲んでいるニトログリセリンが出せない。「ピチェ、薬を!」と必死に頼むが、ピチェはそれが劇の脚色だと思ってしまう。ピチェは、先生が心臓発作で気を失って初めて異常に気付く(2枚目の写真、右端にはピチェが接着剤で直した、「とんでもない形」の彫像がわずかに写っている)。先生は救急車で搬送され、ピチェは走って後を追う。
  
  

刑務所では、お調子者のクロックが、先回のトンネル掘りに続いて、スタークの計画をヤンにこっそり教えている。「巨大なダイヤの付いた王冠のことは聞いてるな? 巨大で高価だから、スタークが欲しがってる」(1枚目の写真)「奴は、どうすると思う?」。恐らく、クロックは、計画のすべてをヤンにバラしたのであろう。ピチェがスプルートを連れて家に帰ると、父が、「やあ、ピチェ。監獄から手紙が来てるぞ」と言って渡す。スプルートは、その手紙を奪うと、「父ちゃんからだろ!  読むなよ!」と怒鳴り、手紙をビリビリに裂き、「もし、また会いに行ったら、絶交だ!」と叫んで出て行く。ヤンが自分に何か用があったんだろうと思ったピチェは、わざわざ刑務所まで会いに行く。「すぐ来てくれて嬉しいよ。手紙には何も書けなかった。すべて検査されるから」。「スプルートが引き裂いたから、読んでないよ」。「ポール・フェイリンハって名前に心当たりは?」。「姉さんの婚約者で、新聞社の社長だよ」。ヤンは、「彼は この監獄にいる」と打ち明ける。驚いたピチェが、「何で知ってるの?」と尋ねる。ヤンは、フェイリンハの「手紙」を看守に見えないよう、ピチェに渡す。そして、さらに、「スターク、トゥーンとクロックは、じき脱獄する。奴らは王冠を盗む気だ。知ってることは全部書いてある」と言い、もう1枚の折り畳んだ紙を渡す(2枚目の写真、矢印は、ピチェがポケットに入れようとする折り畳んだ紙)。ピチェはすぐに警察に行く。例の刑事が出てくる。「ナイフ刑事さん」〔前回、フォークと間違えた/台詞では“Struik”(もじゃもじゃ頭)と言っている〕。「私の名前はフォーカだ。何か用かね?」。あまり親切そうでないので、ピチェは相談するのをやめる。
  
  

ピチェは代わりに新聞社に行き、ロマノフ家の王冠の記事を探し出す(1枚目の写真)。ピチェが次にやったことは、スタークたちが王冠を収奪することにしている運河に架かる橋を見に行くこと。現場感覚もつかまないといけない。そして、誰もいなくなった「黒い手」のアジトに行くと、王冠収奪の阻止策を練る(2枚目の写真)。
  
  

ピチェの3回目の病院訪問。1回目の時は、入院直後で眠ったままだった。2回目の時は、ソフィーが来ていてびっくりした〔ソフィーは先生の孫だった〕。そして、3回目の時は、初めてピチェ1人だった。先生は意識があり、「人形劇は、完成しなかったな」と話しかける。「先生、気にしないで」。「昨夜は、どう終わるか、寝ながら心配してた」。「ハッピー・エンドですよ、先生」。ピチェは両手に人形を持つと、劇の続きを始める(1枚目の写真)。しかし、祖母に化けた狼が赤頭巾を飲み込んだところまできて、先生が既に死んでいることに気付く。次のシーンは、雨の降る夕方。ピチェが、病院の正面で、雨に打たれて立ち尽している。父が寄って来て、「なあ、ピチェ」と声をかける。「ステル先生が死んだ」。「聞いたよ、ピチェ」。「狼の腹を裂くところまで、行きたかった。そうすりゃ、生還できたかも。これじゃ、ハッピー・エンドじゃない!」。父は、「心から泣くしかない時もある。今こそ、その時なんだ」と慰める(2枚目の写真)。そして、埋葬が終わり、ピチェはソフィーに話しかける。「黒い手に入りたいんだろ。でも、できない。黒い手は死んだ。今、一番 必要な時なのに!」(3枚目の写真)。
  
  
  

ロマノフ家の王冠が移動する日、ピチェは、自転車で刑務所の周りを走っていた。角で自転車から下りて様子を窺っていると、足元の斜面の草地に何故か枯れ枝がいっぱい並んでいる。枝を取ると、その下にはトンネルの出口が隠してあった(1枚目の写真、矢印は枯れ枝)。ピチェは、さっそく中に潜り込む。一方、「黒い手」に連絡しても一向に反応がないことで絶望したフェイリンハは、白旗を揚げる。所長室に呼ばれたフェイリンハに、スタークは、新聞社の譲渡契約書へのサインを迫る。「ペンをくれ」。「賢明な決断だな」。フェイリンハが、書類を机に置き サインしようとすると 机がグラグラ動く。事態を悟ったフェイリンハは、「数分、一人にしてくれ。涙が出てきてね」と頼み、所長とスタークは部屋を出ていく。フェイリンハが机を動かすと、床に開いた穴からピチェが顔を出す。「ピチェ、どうやって、ここに?」(2枚目の写真)。「外から。トンネルがある」〔以前、クロックとトゥーンが間違って所長室に突き当たったのは、このための伏線〕。2人は、ピチェが入った穴から出てくる。何ヶ月かぶりに解放感を味わうフェイリンハ。すると、後ろの道路に黒い車が止まる。そして、運転手が「あんた、新聞の人かね?」と訊く(3枚目の写真、矢印は運転手)。スタークが、脱獄後、スムーズに移動できるように手配した車だ。フェイリンハ:「そうだ。新聞社の者だ」。「3人だと聞いてたんだけど」〔スタークとクロックとトゥーン〕。「どこかで、混線したんだ」。車にはフェイリンハが1人で乗り、ピチェは、「ボクには、やるべきことがある」と言って、自転車で走り去る。一方のスタークと所長。部屋に戻るとフェイリンハが消え、トンネルが剥き出しになっている。所長は、「急がないと、警察が すぐここに来る!」と、スタークとクロックとトゥーンをトンネルから外に出させる。同じ頃、ヤンは、刑務所の外に出す洗い物の籠の中に隠れて脱出する。スタークたちがトンネルから出ても、待っているはずの車はもう行ってしまっていない。「あの たわけた車は、どこだ!」。仕方なく、歩いてヒッチハイクすることに。やって来たのは、ヤンが隠れ乗った洗濯屋の車。3人が手を挙げて「乗せて」と合図するが(4枚目の写真)、素通りしてしまう。
  
  
  
  

ピチェが舟に乗ると、そこには「黒い手」の仲間たちが待っていた〔なぜ、そこに?〕。ソフィーが手を回しておいたのだ。前に、離反したエンゲルチェが代表して、「もう一度 入れてくれよ」と頼む(1枚目の写真)。スプルートは、「ボクらが必要ならね」と追加する。ピチェは、どうしても助けが欲しい時なので、「みんな仲間だ、クラースも」と快く受け入れる(2枚目の写真)。
  
  

そして、いよいよ、戦いの場へ。王冠を運ぶ護送車が道をやってきて運河橋にさしかかる。ピチェたちは、持ち場について待ち構えている。護送車が橋の真ん中まで来た時、前方で爆発が起こり、前を行く2台のオートバイが転覆する(1枚目の写真)。護送車には、フォーカ刑事と3名の警官が王冠を守っている。刑事が護送車の後ろのハッチゲートを開けて外に出て、拳銃を構える。スタークが1人で近づいてくる。刑事は、「スターク! 刑務所にいたんじゃなかったか?」と詰問する(2枚目の写真)。「その車にある王冠が欲しくてね」。「俺の目が黒いうちは渡さんぞ」。「ところが、そうは いかんのだ」。スタークが合図をすると、3名の警官が拳銃を刑事に向ける。「金は万能なんでね」。3対1では、刑事も手をあげるしかなく、橋に縛り付けられる。スタークは、「逃走用の車を呼べ」とトゥーンに命じるが、その車の運転手はヤンにやられ、ヤンが運転していた。逃走用の車は途中でストップし、そこから拳銃を構えたヤンが降りて来る。予定外の筋書きとなったが、ピチェは迷わず、パチンコで買収された警官を倒す(3枚目の写真)。スタークが、ヤンに、「何で、ここに来た?」と訊くと、「息子を助けるためだ」と答える。「ここには おらん。だから、失せろ!」。ピチェが、「ここに、いるぞ!」と姿を見せる。そして、「いいか、スターク。王冠をスプルートのパパに渡せ」と要求する。スターク:「わしを、何だと思っとる!」。ピチェは、パチンコで王冠を持った手を撃ち、スタークはあまりの痛さで王冠を落とす。ピチェは、クラースに「取ってきて」と頼む。クラースが王冠を取ろうとすると、スタークが「何をする、このクソガキめ!」と言いながら、クラースの帽子をつかむ。すると、帽子の中に隠してあった髪が解けてソフィーに戻る(4枚目の写真)。もちろん、ピチェはびっくりする。それでも、ソフィーは冠を拾ってヤンに投げる。王冠をキャッチしたヤンは、すぐにピチェに投げ返す。ピチェは車の前方に逃げ、クロックとトゥーンが後を追う。一方、スタークはヤンに襲いかかる。ピチェにパチンコで撃たれた警官も加勢し、2対1で劣勢に立たされたヤンが、スプルートに助けを求める。これまで父を信じてこなかったスプルートだが、さっきピチェに王冠を返したのを見ていたので、父に助けようと警官に飛びかかる(5枚目の写真)。しかし、最後は、スプルート、ヤンともに捕まってしまい、銃を突きつけられる。ピチェは、「みんなを放せ。さもないと、王冠を捨てるぞ」と脅す(6枚目の写真、矢印は王冠)。2人は解放され、ピチェはスターク目がけて王冠を投げる。ところが、刑事がスタークに体当たりしたため〔ケイスが縄を解いていた〕、王冠は橋を超えて運河を航行していたゴミ運搬船に落ちる。しかし、全員が橋から下を見下ろした時には(7枚目の写真)、船は通過した後で、川面しか見えなかった。
  
  
  
  
  
  
  

フェイリンハとマルタは感動的な出会いの後、愛を確認する。ヨゼフは、フェイリンハにアニーとの婚約のことを伝える。スランプリ所長は逮捕され、「黒い手」の活躍も報道され、紛失した王冠には5000ギルダーの賞金がかけられる。スタークらがどうなったかは知らされないが、ヤンは恩赦が決まる。ベルの店では、母が、その記事をピチェに見せる。「いつ頃?」。父が記事を読んで、「あと、数ヶ月で釈放だ」と言う。「よかったね」(1枚目の写真)。その後、刑務所の面会室で、子供たちと抱き合うヤンの姿が映される。ベルの店には、お騒がせのオーゼビエスが、新聞を手に、愚痴を言いにやって来る。「何たる恥辱! ひどい話だ! 新聞に何て書いてあったと思う?! 息子のヨゼフが、お宅のアニーと結婚するだと!」。母:「あら、アニーのどこが悪いの?」。「別にどこも! だが、何で新聞なんだ!」。父が、「あんたの息子も、ピチェに似てきたな」と皮肉を言う(2枚目の写真)。オーゼビエスは、「ヨゼフは新聞なんかには載らんかったのに! 最近は、こんなことまで載せおって!」と怒鳴る。「これからが大変だ! くそ、いまいましい!」。そして、重要な一言。「誰が、わしの靴下をかがってくれる?」(3枚目の写真)〔前作のラストでは、25年後もオーゼビエスよヨゼフは一緒で、ヨゼフは靴下をかがっていた〕
  
  
  

フェイリンハとマルタの結婚式。今度も、姉は、「ピチェ、行儀よくね。今日は大切な日なの」と事前に念を押す。「心配しないで、マルタ。思い出深い日になるから」。これは、あの大騒動となった婚約パーティの前にピチェが言った言葉と微妙に違っている。だから、悪戯は、姉のウェディングベールに「黒い手」を付けただけ(1枚目の写真)。参加者から。「ピチェ・ベル」「ベールに黒い手が」の声が上がると、ピチェが振り向いて黒い手を見せる(2枚目の写真)。それに応えて、「黒い手」の団員も一斉に黒い手をあげる〔これだけ黒い手があれば、もっと他にも黒い手の印を残したのかもしれない〕
  
  
  

画面は暗転し、ゴミ山に変わる。スプルートの妹がゴミ拾いをしていて王冠を見つける。「すごいもの、見つけたわ!」。これで、スプルートの一家はピチェよりも金持ちになるが、スプルートの貢献度から見て、すっきりした結末とは言い難い。
  

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